松江の⼈に愛される伝統の味。「カネモリ醤油」

その他工芸

森山勇助商店の「カネモリ醤油」に出会ったのは、松江のスーパーでした。

「木桶で造られた醤油」とラベルに書かれてあり、興味本位で手に取ったのがきっかけです。市販されている大手の醤油より濃い色をしています。味が塩辛いと想像して舐めてみたら、角の取れたまろやかな醤油の風味が口に広がります。今まで味わったことのないお醤油でした。

森山勇助商店のサイトで調べると、現在でも明治時代ごろから続く醤油蔵を大切にし、木桶による天然醸造で造られていることを知りびっくりしました。 なぜ昔ながらの製法を守っているのか、また独特の醤油の風味はどうして生まれるのか気になり、取材をお願いしました。

森山勇助商店の店内。様々な種類の醤油やつゆの商品が並んでいます

人の力が及ばないところで出来る天然醸造、木桶醤油の味わい

8月上旬、森山勇助商店を訪ねました。
松江城から歩いて10分ほどの石橋町に入って店の3〜4軒前に来ると、お醤油の香ばしいような独特の香りがしてきました。

森山勇助商店の外観。ベンガラ色をした蔵の建物が印象的です

森山勇助商店の社長、森山健さんはお店の奥の応接室でお話してくれました。
「醤油を造るもろみの発酵は、7月末にピークを迎え、これから緩やかに気温が下がり、お盆を過ぎるまでが醤油を造る菌が一番活発に活動する時期です。今の時期は、北堀橋のたもとまで醤油の香りがするそうですよ」
※もろみ・・・小麦と大豆を処理した「麹」を、木桶に塩水とともに入れて仕込み、発酵・熟成させた状態。醤油になる前の段階のもの

夏の時期、通りから醤油の香りがするのは、石橋町に住む人々の日常なのです。

森山勇助商店の社長、森山健さん

カネモリ醤油の味を決める「もろみ調べ」

天然熟成醤油の製造は大体、夏の気温30度が2週間続く頃合いに発酵が進みます。自然にできるものなので、木桶を仕込んだ年の気候や条件によって微妙に味が変化します。また、蔵菌という蔵に元々棲み付いている菌が、雪のように降り積もって木桶やもろみに付着して良い醤油ができるそうです。

自然に造られるもろみから、「カネモリ醤油」の味をどう決めるのかというと、それぞれ仕込んだ時期の違う桶から出来た醤油をブレンドして調合するそうです。しかも科学的な分析値以外の、感覚的なところを大切にして出来具合を調べます。それを「もろみ調べ」と言います。発酵が一番活発になる夏を越した秋に出来たもろみを、職人さんが「香り、手触り、旨味、塩味、酸味など」出来具合を見る項目をもとに、自分の舌の五感で評価していくのです。
正確な「もろみ調べ」をする経験値ができるまで10年〜30年はかかるそうです。
現在「もろみ調べ」は社長含めて3人体制で行っています。次期社長にも受け継がれており、感覚的な作業を習得する人も育てながら貴重な味が守られています。

貴重な醤油蔵を見学

森山社長にお話を聞いた後、醤油蔵を見せていただきました。
30度以上の真夏日、醤油蔵の中の温度はそれ以上になりますが、中の光景がとても興味深く、暑さを忘れるぐらいに見入ってしまいました。

醤油蔵はお店の奥の作業場、中2階にあります。狭い階段を上がり、扉を開けると…
大きな杉の木桶がぽっかりと口を開け、その中にもろみが入っています。奥まで続いており壮観です
醤油になる前のもろみ。中央から泡が出ています。隣の桶と色味が違うのは、仕込んだ時期の違いです
社長自らもろみをかき混ぜているところを見せてくれました

醤油になる前の工程、もろみは明治時代からずっと守り続けている蔵に身を預けて、生き物のように泡を出しながら発酵し、静かに息づかいをしています。人の力の及ばないところで醤油が出来る、不思議な光景にしばし圧倒されました。

「木桶醤油」という文化を継いでいく

現在、木桶醤油の生産量は、日本全国の醤油生産量の中で1.8%しかないそうです。森山勇助商店のようなお店は「醤油の博物館」とも言えるでしょう。
貴重な醤油を次の世代に残していくには、消費者に価値を伝えて選ばれる必要があります。
手間ひまをかけても「醤油本来の味わい、本物の価値を伝えていきたい」という思いで、森山勇助商店は製法と蔵を守り続けてきました。
値段は一般的な市販のものより単価は必然的に高いですが、醤油は毎日の食卓で口にするものです。「貴重で味わい深いものを選び、子どもの頃に本物の良さを覚えさせることが重要」と森山社長。
「醤油は本来、料理の脇役であり少量使用するものなので、少しお金を出しても自然の風味豊かな醤油を使ったほうが良いんです。子どもの小さい頃から使うと舌の教育、食育にもつながります」

「カネモリ醤油」のこれから

森山勇助商店は、新しい角度から醤油の良さを伝える努力も惜しみません。地元のメーカーと協働して新たな加工食品にも挑戦しています。例えば、魚加工会社と組み、日本海で取れたトビウオ(あご)のでんぶを、みりん、黒糖と木おけ醤油で炊き込んだ「あごひびき」を開発しています。

人工知能が人にとって代わるような昨今ですが、自然本来の良さを伝え続ける森山勇助商店は、これからもカネモリ醤油を長年愛用してきたお客さまの要望にお応えし、「伝統的醤油文化の継承と現代に即した発展、展開を目指す」ことをお店の理念としてお醤油造りを行っていかれるそうです。
長く城下町松江に住む人の舌に愛される、とっておきの木桶醤油。50年、100年先も続くことを願います。

【合資会社森山勇助商店】(松江城から北堀町方面に徒歩10分程度)
所在地:島根県松江市石橋町393
電話:0852-21-2165
営業時間:9:30〜17:00
定休日:土日祝日
駐車場:あり
ホームページ:https://kioke.com
工場見学:随時。要事前予約。(作業によってはご案内が難しい場合もございますのでご了承下さい)

カワモト タマコ

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東京都出身。「島根県の工芸、技術を次の世にも伝えていきたい!」と一念発起し、グラフィックデザイナーから松江市協力隊の松江工芸の魅力を伝える仕事に飛び込む。出...

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