大切な誰かにだけそっと教えたい、居心地良い古本屋。

ひと

松江に移住して1年余りの私は本好きで、中でも個人経営で品揃えが店主のこだわりの見える本屋が好きです。幸運なことに松江でも居心地の良い古本屋「冬營舎」を見つけました。移住した私でも落ち着くお店のことを不思議に思い、穏やかな雰囲気の店主になぜ松江という場所を選び、お店を営んでいるのかお話を伺ってみました。

「お店も置いてある本も、店主の穏やかな人柄そのもの」 

松江市中心街にほど近い、個性的なお店が点在する茶町エリアの一角、表通りから路地に入ったところにあるやや年季の入った建物。すこし軋む引き戸を開くと、落ち着いた風情のある女性が温かい笑顔で迎えてくれます。 それが店主のイノハラさん。「立て付けが悪くて」と、お店に入る私に気遣ってくれました。

店内はアットホームな雰囲気で、見渡せば全ての本が眺められるくらいの広さ。カフェとして利 用できるスペースを囲むようにして古本の棚が壁づたいに置いてあります。 コーヒーを頼み、木の椅子に座ります。ふと書棚に目をやると、イノハラさんの本や文化に対する熱意が伝わってくるよう。「長谷川四郎」や「内田百閒」、「ヘルマン・ヘッセ」などの文学から、とても古い装 丁の料理本、美術や工芸の本まで、本好きなら思わず中身が気になって手に取りたくなる本がひしめいています。 置いてある古本や空間そのものもまるでイノハラさんと呼吸を合わせているようで、静かで落ち着いた表情をしています。

「移住先に松江を選んだ理由」

10 年ほど前に県外から移住してきたイノハラさん。移住先の候補はいくつかあったけ れど、「より静かに日常を過ごせそうな街」として松江を選んだそう。

イノハラさん: 「松江の良さをひと言で表わすのは案外むずかしいのですが、穏やかな宍道湖があって、ゆったりと時間が流れていて、落ち着いているところかな。 静かだけれどさびれてはいないし、中心部は個人商店もまだまだ多い。妙に観光地化もされていない。いまの松江は絶妙にバランスが保たれていて、そこが住み心地の良い最大の理由かもしれません」

私:      「そうかもしれないですね。一度外に出て戻ってお店を開業する若い世代が多 いのも面白いですね。また帰りたくなる居心地の良さがあるからでしょうか」

イノハラさん: 「観光で来る人にも、代表的な観光地を観光バスで駆け足でめぐるんじゃなくて、松江の持つ本来の良さ、奥深さを知ってもらいたいです。私のような他所から来た人間にはまだまだ踏み入れることができない、表に見えにくい文化もあるんです。例えばスーパーマーケットの棚に抹茶が何種類も並んでいる。小さな街なのに和菓子屋の数が多い。これは『抹茶を飲む文化が一般家庭に浸透している』ということ。文化とは本来その土地の生活に根ざしていて、それが街を形作っているんです」

「いつものお客様とともに、お店を彩っていく」

お店を営むのも初めてで、本屋での経験も無い状態で冬營舎をオープン。 知り合いもほとんどいない状態でのスタートでしたが、「次第にいろいろな人が足りない部 分を補ってくれて、人に助けられて今のお店が成り立っている」そう。 「私は流れに身を任せているだけ。自分が出来ることは限られているけれど、お店に来る人が冬營舎の進むべき 道を作ってくれている」とイノハラさんは言います。 その「余白」のある雰囲気が、お客様に「力になりたい」と思わせるのでしょう。

「古本屋をつづけることで日常にある文化を守りつづける」

古本屋をつづける理由のひとつとして、イノハラさんは次のような理由をあげました。

「私のような素人古本屋が僭越だと思いますが、この街で店を開けている古本屋はいまはうちだけです。古い本を人々が目にする機会がないと、昔からあった文化が廃れていく。だからいつも人の目に触れる状態にしておきたい」 。

「かと言って、買ってくれる人が少ないと困ってしまうけれど」と、チャーミングに笑ってくれま した。 「文化」は本来みんなの日常にある自然体のものですが、目にする機会が無くなると消えてし まうもの。当たり前の日常に紐づけて、街の古い文化を残す一端を担いつつ、お客様に居場所を与えることが、イノハラさんにとって古本屋を営むということのようです。

コーヒー片手に古本に囲まれて、穏やかに文化や本について話す充実したひとときが過ごせる 冬營舎。「足を運んでもらいたいけれど、あまり多くの人には教えたくない。大切な人にだけに そっと紹介したい」と思わせてくれる、特別なお店です。

【古本 冬營舎】

所在地:島根県松江市西茶町90-8

電話:0852-67-1653

営業時間:12:00すぎ~19:00ぐらいまで

定休日:不定休(休みなどはブログの「休みと予定など」でお知らせ。)

駐車場:なし

URL:  http://books-toeisha.jugem.jp

カワモト タマコ

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東京都出身。「島根県の工芸、技術を次の世にも伝えていきたい!」と一念発起し、グラフィックデザイナーから松江市協力隊の松江工芸の魅力を伝える仕事に飛び込む。出...

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