いきものに対する愛とよろこびを形に宿す。
松江市宍道町の作陶家・三原嘉子さん

ひと

白い器から浮かび上がる、物語を感じさせる生き生きとした動物たちの線描。今にも音楽が鳴って動き出しそうな愛嬌のある鳥や犬、猫のオブジェ。素朴で洗練された形をしています。

手触りなめらか、使う人を楽しませる作品

三原嘉子さんの作品は手に持った感触が丸みを帯び、重さを感じさせず、見る人を和ませる力があります。その魅力はどうやって生まれるのか。工房を訪ねてお話を伺いました。

松江の有名な温泉街、玉造温泉を過ぎて10分ほど山奥に車を走らせると、陶芸家・三原嘉子さんと、夫で陶芸家・三原研さんの自宅兼工房が見えてきます。 周りは森と田んぼに囲まれ、緑豊かでとても静かなところにモダンな建物が建っています。建物のそばには程良く手入れされたお庭もあります。三原さんは夫・研さんと共に、ここで日々作陶しながら生活されています。

三原嘉子さんと研さんのギャラリー。三原さんの作品が壁面の棚に整然と並べてありました

工房に併設されているギャラリーを訪ねると、三原さんが明るく出迎えてくださいました。三原さんはいつも自然体でお話しくださり常に雰囲気を和ませてくださいます。

「ものづくりが好き」で陶芸の道へ。宍道に工房を構える

三原さんは小さい時から絵を描き、ものづくりをするのが好きだったことから大阪芸大工芸科に入学しました。在学中に様々な素材と技法を勉強していく中で、特に立体表現である陶芸の世界に魅せられ、技術を磨きます。卒業後、江戸時代から続く松江の布志名焼窯元であり、民藝運動の人とも交流のあった舩木研兒さんに弟子入りしました。

舩木さんに器づくりの手法や精神を教わった三原さんは、その後、お弟子さん仲間の研さんと結婚。研さんの実家がある出雲市佐田町に移り住み、子育ての傍ら作陶もされていました。
10年ほど経って工房が手狭になり、新たな土地を探していたところ、現在の宍道町東来待の場所を気に入って住居兼工房にされたそうです。

愛嬌のある動物たちが見え隠れする、カップたち

三原さんの作品は「粉引」という、ベースの粘土の上に、白化粧という白い泥をかけ、釉薬をかけて焼く技法で作られています。
元々素朴で温かみのある陶器の白が好きで、大学時代からずっとこの技法で作品を作っています。
「使っていく上で、お客さまそれぞれが白い器に彩りを添えてもらえるとありがたいですね」と話されました。

絵柄の部分が少し土で盛り上がっており、触り心地も楽しい器

個性的な造形から感じさせる、ものを見る、表現する力

三原さんの造形は、リアルではなく、ご自身のイメージから作られる形に昇華されています。「宍道の土地にある風や、緑、土など自然の息吹を、作品を通して使ってもらう人が感じてもらえれば」とのこと。

三原さんは作陶時、鳥への思い入れを強く持っているといいます。 自宅付近にある自然の中を散歩していると、きれいな鳥の鳴き声が聞こえるけれど、普段姿は見せません。その鳥の形をイメージして作られるのがとても楽しいそうです。

次の瞬間に飛んだり、鳴いたりするのではないかと思わせる鳥のオブジェ。首の傾げ方の角度が絶妙です

柔らかで個性的な造形について聞いてみると「いつも試行錯誤」だそうです。「展示会をすると、『猫に見えない、犬だ』なんて言う人もいるのですよ。最初は気にしていましたが、今は見る人のイメージや解釈に任せています」と静かに微笑みながら話してくださいました。

古代の焼き物で動物を象ったものでも、実物と相反しデフォルメされたものがあります。それらは、動物の本質やユーモアを表現していると言えるでしょう。原始的で素朴な造形は、動物と人との生活や営みを感じさせ、見る人に想像力を働かせます。
三原さんもリアルに表現するよりも敢えて形を「ゆるく」して、長年培った経験と感覚、ものを見る洞察力と豊かな造形力で作品を見る人に語りかけています。

鳥のオブジェを作陶されている三原さん(撮影/古川誠さん)

うさぎの陶人形からお菓子! ユーモアあふれるものづくりのこれから

三原さんは今まで動物のオブジェ(小型の立体作品)を作ることが多かったそうですが、もっと実用的な作品にも挑戦されています。例えば、お茶に使う香合や、振出ふりだしという、こんぺい糖や豆菓子を入れる陶人形です。 お家で人を呼ぶ時、小さな陶人形にお菓子を入れておきます。お茶をもてなす際に意外なところからお菓子が現れ、客人に喜ばれるというユーモアです。
他には、野点のだて※の際のお供にお菓子入りの小さな陶人形を連れて行き、お茶を飲む時にお菓子を楽しむなど、日常を少し離れて気持ちに余裕を持ちたいシーンで使ってもらいたいとのことです。三原さんらしくて可愛らしいアイディアの詰まった作品です。
※野点・・・屋外にお茶道具を持ち出し、お茶、または抹茶を嗜むこと。

振出の陶人形。ウサギは、花束の部分が取れて中に物が入れられます(写真下)
写真右のネコも、帽子の部分が取れます

三原さんは作陶する際に、自分の気持ちがワクワク高揚するものを作ることを一番に考えているそうです。
宍道という土地に根差し、工房の周りの自然や動物たちに愛する眼差しを向け、作り手自身が楽しんで作陶しているからこそ、見る人を和ませ、音楽を感じさせるようなイメージが作品から働くのだと感じました。

自宅の玄関にあったら、「行ってらっしゃい」と声をかけてくれそうな犬のオブジェ。野点で「甘いもの、おひとつどうぞ」と首を傾げてお菓子を出してくれそうな振出。三原さんの作品は、私たちの日常にそっと寄り添い和ませてくれます。

ぜひ、一度三原さんの作品を手に取ってみてください。

白くて優しい風合いのマグカップ

(注)三原嘉子さんの工房は、通常見学を受け付けておりません。商品をお買い求めの際は、お近くの下記の販売店までご連絡ください。


三原嘉子さんの作品が置いてあるお店(松江市内)
・島根県物産観光館2F 民工芸品売場
〒690-0887 島根県松江市殿町191
TEL:0852-22-5758 FAX:0852-25-6785
URL:https://www.shimane-bussan.or.jp/sb/

・出雲かんべの里工芸館2F いろは舎
〒690-0033 島根県松江市大庭町1614
TEL:0852-28-0040 FAX:0852-28-0049
URL:https://kanbenosato.com/shop/


【三原工房】(玉造温泉から大東方面に、車で10分程度)
所在地:島根県松江市宍道町上来待1715−7
電話:0852-66-3020
駐車場:2台ほど
インスタグラム:https://www.instagram.com/yoshiko.mihara/

カワモト タマコ

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東京都出身。「島根県の工芸、技術を次の世にも伝えていきたい!」と一念発起し、グラフィックデザイナーから松江市協力隊の松江工芸の魅力を伝える仕事に飛び込む。出...

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