「心を込めて『いただきます』手作りを守り続ける糀屋さん(松江市美保関七類)」

ひと

味噌や甘酒などに不可欠なこうじをいまだに手作業で作っているお店が松江にあります。松江の中心部から車で東に約40分、松江市美保関町七類にある森脇糀店です。

森脇糀店を知ったのは、所属する地域おこし協力隊の中の一人が糀作りに行っていたことからでした。特別に糀の作業場に入れていただき、米糀作り体験をしました。店主の森脇正則さん、妻の千保美さんから糀に対する思いを聞き、糀作りを応援したいという気持ちが湧いてきました。

「私たちの食卓を支える、手作り糀が生まれる過程を知る」

まだ寒い冬場の朝8時半に森脇糀店に到着しましたが、作業場ではもう糀作りの準備が進んでいます。米糀の材料、お米を蒸す蒸気が煙突からたくさん出ていました。

「糀店」といっても店舗は無く、小さな作業場と森脇さんの家だけです。

森脇糀店の作業場の入り口。看板はありますが、見落としてしまいそうな建物です

作業場に入ると、ほのかにお米の甘い香りがする蒸気が辺りいっぱいに漂っています。サウナのミストのようです。

米糀体験! 根気と丁寧さが味のポイント

森脇糀店では主に米糀、麦糀、味噌作りをしています。冬場は湿度が低く、雑菌が少ないので米糀を作る時期としては最適で、1月〜3月は、森脇さんたちの一番忙しい時期です。
米糀を作る作業はシンプルです。
朝に蒸した50kgほどのお米を、広い四角い木おけに移し、しゃもじで平らに慣らして熱を冷まします。熱すぎると、この後お米にかける糀菌が熱で死んでしまうそうです。

お米の粗熱を取るために木桶に運びます。2人がかりです
糀になる前のお米。お米も地元産で、農薬がごくわずかな安全なお米です

普段、一度に大量のお米を見ることがないので驚きの光景です。
次に木桶の中のお米に糀菌をかけ、再び手で揉み込み、全体的に糀菌が行き渡るようにします。

お米に糀菌を入れ、手作業でまんべんなく菌を揉み込む作業。丁寧さが必要です

お米を揉み込む作業は簡単に見えても、お米が熱く重いので、森脇さん夫婦と同じように作業はできません。
糀菌がある程度全体になじんだら、温度30度、湿度70〜80%に保った木のむろにお米を運び、再度室で揉む作業をします。糀菌をまんべんなくお米に行き渡らせ、お米に布をかぶせて寝かせます。

糀を寝かせる木製の室の入り口。糀作りの歴史を感じさせます
室に入って糀の入ったお米を再度揉み返します
お米に布をかけて寝かせます

夕方、室の中でもう一度糀菌のついたお米を揉み込みます。そして糀を発酵させるための木製の箱「もろ蓋」に取り分けます。言葉にすると単純な作業ですが、毎回、50kgほどのお米を運び、同じ量を早朝と夕方に揉む作業は、根気と力のいる仕事です。

寝かせたお米を「もろ蓋」に取り分け、2日ほどすると米糀が出来上がります。こちらが「糀の花が咲いた」と言われる状態です
出来立ての米糀は温かく、食べるとほのかにお米の甘さがあります。フワフワした不思議な食感です

米糀作りは、とても新鮮で面白いものでした。 味噌や甘酒など、加工された後のものを見ることはあっても、糀を作る過程、米から糀に育つところや、糀菌が生えて出来上がった状態を見る機会はめったにないのでうれしくなります。こんなに手間をかけて作られているのだと、糀に対してとても愛着が湧きました。

朝の作業は、室に入れ寝かすところまででひと段落です。
10時ごろ、皆さん休憩に入り、お茶の時間になります。

糀作り体験に参加された皆さんとお茶をしました。森脇さん夫婦も加わり、話が弾みます

「30年近く寄り添い、励まし合う夫婦2人3脚の糀屋」

森脇糀店は明治時代から家業として美保関の七類港のすぐそばで糀を作ってきました。現在の正則さんが6代目で、先代から継いで35年目になります。明治の頃には今のような木の室ではなく、人が2人ほど入る小さな土の室で作っていたそうです。

森脇糀店を営む、森脇さんご夫婦

糀仕込み以外のその他、配達や事務の作業は、夫婦2人で全て行います。配達に出かける時は2人で出かけることもあるといいます。

「お父さんと2人で配達をすると、次の配達先まで時間がある時は、外でランチを食べるのよ」と楽しそうに話す千保美さん。お二人の仲の良さがうかがえます。

「お客さまがいるから、今日も笑顔で続けていける」

森脇さん夫婦は高齢になるとともに配達や原料仕入れ、50kgの米を加工する作業が年々きつくなってきています。息子たちは別の仕事に就いており、後継者問題が大きな悩みです。店をたたむことも考えるそうですが「長年森脇糀店の糀商品を愛してくれるお客さんがいるから頑張れる」と続けていらっしゃいます。
千保美さんは「糀屋をやっていて、『つらい』と思うことはないですよ」と笑顔で話します。

仕事の楽しみは配達先のお客さんとの世間話だそう。親しいお客さんは同世代か、その上の世代の方がほとんどです。いつも商品配達を喜んでくれ、時にはお昼ご飯をご馳走になったりすることもあるといいます。

昨日よりも今日、より良いものをお客さんに届けたい

森脇さん夫婦は35年間糀作り、味噌作りをしていますが、十分満足したものが出来上がったことは一度もないそうです。
「作業の手を抜いたりするとすぐ糀の出来上がりが変わるのよ」と千保美さん。毎日の気温や、米や麦の状態も出来上がりに影響するので、同じものは出来ないそうです。

いつも良いものを丁寧に作っていこうと思う気持ちが、お客さんに伝わるからこそ、森脇さんの糀が求められるのでしょう。

商品の麦糀(写真左)と、味噌(写真右)。味噌も添加物など一切入っていません
袋詰めされた米糀。これから皆さんのお宅やお店に配達されます

森脇さんの工場から蒸気が出ている朝の光景が、少しでも長く続くように。これからも森脇糀店の味噌や糀で作った料理に感謝を込めて、「いただきます」と手を合わせます。

森脇さんの麦糀で作った金山寺味噌。ご飯のお供にとても合います(撮影/minokamo 長尾明子)

(注):糀作りは一般の方を体験教室のような形で受け入れておりません。今回は取材のため特別に受け入れていただきました。購入はお近くの販売店にてお願いします。


森脇糀店の商品:米糀(通年)、麦糀(通年)、味噌(通年)
販売店:Aコープたまゆ、Aコープふるえ、道の駅本庄、一畑百貨店地下1階食料品売り場(2024年1月に閉店)


【森脇麹店】(松江駅から美保神社方面に、車で40分程度)
所在地:島根県松江市美保関町七類1828
電話:0852-72-2576
駐車場:なし(近隣の七類港西駐車場をご利用ください)

インスタグラム:https://www.instagram.com/koujiya_matsue/

カワモト タマコ

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東京都出身。「島根県の工芸、技術を次の世にも伝えていきたい!」と一念発起し、グラフィックデザイナーから松江市協力隊の松江工芸の魅力を伝える仕事に飛び込む。出...

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